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【職人が金継ぎを始めたきっかけ (5)】 山笑堂 川端 吉太郎さん

はじめに

国内・海外で年々注目が加速している金継ぎ。
金継ぎとは、割れたり、欠けたり、ヒビが入った器を、漆(うるし)と呼ばれる漆の木の樹液を加工した塗料を用いて修復し、最後に金などのお粉でかわいらしく仕上げる日本の伝統技法です。モノがまだそれほど多くはなかった時代には、壊れたモノを修復してもう一度使うことは当たり前でした。大量生産・大量消費の今も受け継がれるべき、日本の素晴らしい文化です。

この金継ぎを職業にされている日本中の職人さん(「金継ぎスト」と呼んでいます)にインタビューをしました。金継ぎを始めたきっかけや、その想いを伺う中、それぞれの金継ぎストの人生に触れることができ、金継ぎにもっと興味を持つことができました!

ミッション

金継ぎを、金継ぎストからの目線で語っていただき、世の中に広く知ってもらう! 

今回の金継ぎスト: 山笑堂 川端 吉太郎さん 

神奈川県横浜市で天然の本漆を使った金継ぎを行っている、山笑堂の川端 吉太郎さんが、快くインタビューをお引き受けくださいました。 川端さんのお話から学んだことを、私見を織り交ぜながらまとめました。 

山笑堂 ホームページより

店舗情報

山笑堂
〒 236-0038
神奈川県横浜市金沢区六浦南 4-20-4-710
tell / fax : 045-701-7662
mob : 090-2209-7571
e-mail : yama-warau@jk9.so-net.ne.jp

金継ぎインタビュー

漆芸・金継ぎの世界に足を踏み入れたきっかけ

川端さんが金継ぎやその他の材料での修復のサイトを開いたのは5~6年前で、もともとは全く別の業界でお仕事をされていたそうです。ある時、偶然の出会いから漆芸の世界に足を踏み入れられ、10年余り当時のお仕事と平行して漆芸の専門家に師事されたのち、現在に至っていらっしゃるとのことです。

最初は同級生やご友人からの修復のご依頼を受けていらっしゃったそうですが、ホームページを開設したところ一般の方々からもご依頼が来るようになり、今では日本だけでなく、海外(シンガポールなど)からもご依頼があり、英語で修復のメールのやりとりをすることもあるそうです。また現在、主に工房で修理や作品製作をされていますが、神奈川県の数ヵ所で金継ぎ教室を定期、不定期で開催されているそうです。

金継ぎに対する外国人の考え方

川端さんが以前のお仕事で海外にいらっしゃった際、外国人から「なぜ日本人は壊れた器を直すのか?」とよく聞かれたそうです。外国人はこういった文化について非常に興味をもっていて上手く説明されますが、日本人は自国の文化やその詳しい背景を答えるのがあまり得意ではないかもしれません。外国人の方が日本の文化をよく知っていることもあります。
そこで以前、川端さんは「漆から考える日本文化史」と題し、漆と日本文化についての考察をお話しする座学の講座を実施されたそうです。

また器を直していると精神的に集中して、セラピーになるといわれますが、これは本当だと思っています。

金継ぎをご依頼されるお客さんについて

一般の方(器好きの主婦の方)や料亭が多いのかと思っていましたが、運送会社、建設会社、リフォーム会社、引っ越し屋さんなどからも一定の割合でご依頼があるそうです。確かに、こういった会社はモノを壊してしまうリスクが高いですよね。

日本の修復の現状について

海外の美術館では、作品収集や研究・調査を行う専門員(キュレーター)と修復を担当する人(コンサヴェーター)が必ず一緒にいるそうですが、日本では後者の、美術品の維持管理する人が足りていないようです。これまで力を入れて修復する人を育ててこなかったのが一因かもしれませんが、日本の美術品は日々痛んできているそうです。美術大学では修復学科があるので、修復する人材がもっと増えることに期待しています。

また漆産業でも、漆職人の数は減り続け、道具を購入する人が減った結果、器材を作る人も減っているそうです。江戸時代までは漆工芸は盛んで、どの地方も漆の木がありました。しかし明治政府が政策転換してから、漆工芸はどんどん衰えていきました。昔は器を一つ買ったら、一生使っていくものでしたし、自分の・お父さんの・おばあちゃんのお茶碗など所有者が決まっているのは、日本特有の文化だと思います。しかし現在、若い人々は(私も含めて)高価な漆器はなかなか買おうとしないのが現状です。食器自体をそれほど買わなくなってきているかもしれません。これまで漆器の産地で有名だった地方が、消費者にとって使いやすいプラスチックのお椀を生産・販売し始めたのも、生産者の生活のためには仕方ないことなのかもしれません…。

モノには魂が宿る

ディズニーランドで買った500円くらいのモノですが、思い入れがあって何とか割れを直したいなど、金継ぎ修理に元の値段を超える1万円かかると分かっていても、ご依頼される方がいらっしゃるそうです。日本人はモノには魂が入っていると信じているのかもしれません。

  日々の生活に使っているモノにまで魂が宿るという考え方は日本特有だと思います。 

2019年10月21日 日経ビジネス 池松 由香より

会社員も経験された上での、職人としての新たな生き方について

大企業ではみんなでプロジェクトを切磋琢磨しながら遂行する達成感がありますし、億単位など大きい金額が動く案件もあり、刺激的です。しかし、一人で黙々と行う修理の職人というお仕事も、それはそれで達成感があるそうです。1対1でお客さんと直接接することができ、感謝されることは、何事にも代えられない喜びにつながります。さらに、企業をリタイアした後も、日々目標をもって手仕事を続けられるのも良いと思います。

川端さんの職人としての姿勢から感銘を受けたこと

金継ぎをよくご存じない方や若い方の多くは、金継ぎで修復した仕上がりのイメージが湧きづらいようです。川端さんはメールでその方の器の状態に近い仕上がりの写真を送ったり、直接来られた方には現物をお見せしたりして、最初に希望の仕上がりを入念に伺っていらっしゃるそうです。万が一お客様がその仕上がりを気に入らなければもう一度やり直すなどして、お客様との信頼問題を非常に大切にされていらっしゃいました。そんな 川端さんの、金継ぎに対するポリシーをお伺いしたところ、
「品質」! 
お金を1円でも取る以上、プロのクオリティに達しなければならず、納得いかなければ赤字でもやる。それが信用だと思っていらっしゃるとのこと。
その自分への厳しさと熱意に、大きな感銘を受けました。

また、前職の機械工学の知識とご経験を活かし、毎回時間を計って、最初に出したお見積もりと実際かかった時間・金額を照らし合わせ、見積もりの精度を上げるように心がけているそうです。この緻密さは、「職人+α」だなと勉強になりました。

金継ぎマッチングプラットフォームについて

取材者Yukiは、金継ぎや伝統工芸を一般の人にもっと普及させ、職人さんにより活躍してもらいたいと思い、インターネット上にマッチングプラットフォームを構築したいと考えています。 これについてご意見をいただきました。

多くのお客さまが、壊れた器についてどこに相談していいか分からない、もっと前に知っていればよかった(捨ててしまった)とおっしゃるそうです。そういった方々に金継ぎという選択肢があることを知っていただけるようになるのは、良いことかもしれません。

職人さん側としては、有名な器の作家さんには需要がありますが、器を作ることで生活していくのは一般的に大変だそうです。
金継ぎの修理というお仕事を今より気軽に請け負えるシステムを作ることで、職人さんが活躍できる場が増え、一つでも多くの大切な器が長く使い続けられるような、そんな一助になればよいなと思います。また金継ぎ修理に興味をもって漆芸の道に入ってくる方が増え、美術品も含め修理がより盛んになればよいなと思います。

最後に

漆芸以外にもいろいろなご経験をされている川端さんのご意見をいただき、新たな視点で金継ぎを見つめなおすことができました。「金継ぎには創造性と新しい景色がある。」とおっしゃっていましたが、これからもこの素晴らしい伝統技法を、後世に繋いでいけるお手伝いができればと思います。

写真:山笑堂 ホームページより

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