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【職人が金継ぎを始めたきっかけ (8)】 et craft 平井岳さん・綾子さん

はじめに

国内・海外で年々注目が加速している金継ぎ。
金継ぎとは、割れたり、欠けたり、ヒビが入った器を、漆(うるし)と呼ばれる漆の木の樹液を加工した塗料を用いて修復し、最後に金などのお粉でかわいらしく仕上げる日本の伝統技法です。モノがまだそれほど多くはなかった時代には、壊れたモノを修復してもう一度使うことは当たり前でした。大量生産・大量消費の今も受け継がれるべき、日本の素晴らしい文化です。

この金継ぎを職業にされている日本中の職人さん(「金継ぎスト」と呼んでいます)にインタビューをしました。金継ぎを始めたきっかけや、その想いを伺う中、それぞれの金継ぎストの人生に触れることができ、金継ぎにもっと興味を持つことができました!

ミッション

金継ぎを、金継ぎストからの目線で語っていただき、世の中に広く知ってもらう! 

今回の金継ぎスト:et craft 平井岳さん・綾子さん

福島県郡山市で、漆や木を素材とした手仕事と金継ぎを行っている平井岳さん、綾子さんご夫婦が、快くインタビューをお引き受けくださいました。 お二人のお話から学んだことを、私見を織り交ぜながらまとめさせていただきました。 

et craft ホームページ https://etcraftet.wixsite.com/info

金継ぎインタビュー

漆工芸・金継ぎに興味を持ったきっかけ

岳さんは京都ご出身で、美術高校在学中デザインを学ばれたそうですが、その後、ゆっくり時間をかけて創作できる漆芸か陶芸のどちらかに進もうと悩まれ、珍しい方である漆芸を最終的に選択されたそうです。平井さんが大学をご卒業されるとき、ちょうど東北大震災があり、就職などと言っていられない大変な状況でした。また大学で学んだだけではできることが限られているとお感じになったこともあり、卒業後は茨城県北部の奥久慈(おくくじ)地域で修行の道を歩まれたそうです。その後、綾子さんとet craftを設立されますが、伝統を守ろう、という気持ち以上に、純粋にこのお仕事が好きで続けていらっしゃるそうです。

綾子さんは学生の頃から物づくりにご興味があったそうですが、漆芸は敷居が高いのでは…とお感じになられていたときに、うるし漫画家で有名な堀道広さんの「青春うるはし うるし部」という漫画を読んで勇気づけられ、漆芸の道に進まれることを決められたそうです。

青春うるはし うるし部 
(URUSHI COMICS)
青林工藝舎(2007/3/25) 

現在のお仕事

お二人は東北芸術工科大学で出会われたそうで、現在、綾子さんが金継ぎ担当で、岳さんは漆器の塗りと漆の採取(漆掻き)を担当されており、忙しくなったらお互い手伝い合っていらっしゃるそうです。現在の平井さんのお仕事の中では、約3割が平井さん自身による漆器づくりで、残りの約7割は漆器製造の下請け、金継ぎ教室・修理を含むご依頼を受けたお仕事が占めているそうです。

金継ぎワークショップ・教室

福島県郡山市から仙台に出張されて、定期的に1日金継ぎワークショップを実施されています。1日で完結してほしいという運営側のご意向もあり、最後に本漆で仕上げる簡易金継ぎの方法で教えられているそうです。また平井さんを訪れる方の中では、簡単に自分で金継ぎをしたいというご要望が多いそうです。最後は本漆で仕上げるため、ワークショップでお客様が金継ぎした器を全て福島県の工房に持ち帰り、漆風呂でしっかり漆を乾燥させたのちお客様にお渡ししています。

福島県郡山市の工房で実施されている金継ぎ教室では、ご年配の参加者が多く、郡山市の近隣の方以外にも、お隣の福島市から来られる方も多いそうです。遠くから通ってでも金継ぎを習いたいというお客様のお気持ちに驚きました。

金継ぎ修理

毎月第4日曜日に福島市で開催されている『マルクト朝市』にて『金継ぎ便』を出店されています。お客様と対面でお見積もりをし、金継ぎ修理を受け付けていらっしゃいます。

また郵送でも金継ぎ修理を受け付けており、まずはお客様からメールで写真を送っていただき、お見積もりをされるそうです。

取材者Yukiが以前、東京都在住の111人の女性に取った金継ぎに関するアンケートによると、器を郵送中に破損してしまわないか不安を抱いていらっしゃる方が何人かいらっしゃいました。しかし平井さんのご経験の中では、梱包に気を付けていらっしゃることもあってか、郵送中に器が割れてしまったことはないそうです。

漆の種類

漆の上塗りには、岳さんが修行をされていた奥久慈(おくくじ)の日本産の漆を使用されているそうです。また岳さんは、昨年は岩手県の浄法寺で漆掻きの職人育成研修に参加したそうです。

国産漆の樽を見せていただきました。1貫目3.75kgの漆が入るそうですが [写真]、岳さんは昨年半年の山仕事で約10貫目(40㎏)の漆を採取されたそうです。木の樽に漆を入れて保存することで、漆の発酵を促し乾燥や艶の具合を安定させます。

日本産と中国産の漆には、それぞれに特色があるそうです。地域的なものなのか、郡山市ではリーズナブルに器を直してほしいとご要望のお客様が多いため、国産漆とご指定があったときに国産漆を使用されているそうです。

ご使用中の漆
浄法寺の漆(横)
浄法寺の漆(上)

漆の入った樽

漆風呂(室 [むろ] )

工房にて、立派な漆風呂を見せていただきました。漆風呂の中は、温度管理のためのヒーターと湿度を保つためのシートを設置され、温度と湿度が一定になるように工夫を凝らしていらっしゃいました。漆が乾く(硬化する)ための条件として、湿度は70~80%に保たなければなりませんが、この湿度が1%でも変動すると、漆の塗り立ての仕上げの色が変わってしまうため、細心の注意を払っていらっしゃいました。

金継ぎの需要

東北大震災の後、金継ぎによる器の修理のご依頼が増えているそうです。しかし、まだ多くの一般の方々が、金継ぎが漆を使った技術であることを知らないようです。(稀に、金属の溶接による接着技術だと思われていることもあるようです。)

現在は昔ながらの職人さんも活躍しつつ、新しい職人さんとバトンタッチしていく時期でもあるようです。インターネットの普及などから、いろいろなことがオープンになってきたため、昔は難しかった産地の枠を超えることも可能になってきたそうです。

また東北芸術工科大学では漆芸専攻で学ばれる人数が昔より増えているそうです。大学を出た後も漆芸を続けられる方の人数は限られてくるようですが、漆の分野に興味をもつ若い方が増えているのはうれしいことです。

一流の職人さんになるためには、大学を卒業した後、研修所(輪島・会津などが有名)で実技を学び、さらに作家・職人さんに5年間弟子入りした後独立、という流れもあるそうです。学術において優秀でも、手に職がつけられるかはまた別なのかもしれません。修行やお弟子さんとしてさらに技術を身に着けることで、独立した時にお仕事をいただけるコネクション作りにもなるそうです。

東北地方の金継ぎスト

東北地方にはそれほど金継ぎストは多くないようですが、青森県や岩手県でお知り合い・お世話になった方が今も漆関係でご活躍されているそうです。基本的に漆芸ができる方は、その応用的な位置づけの金継ぎもできるので、大々的には金継ぎをされていることを発信されていないけれども、実は金継ぎをされている、通称:隠れ金継ぎスト(取材者Yuki命名)もいらっしゃる可能性があります。

ご活動の情報発信

平井さんは主にホームページインスタグラムで情報発信をされているそうです。今後も金継ぎ・漆について、こういった媒体で分かりやすく一般の方々に伝えていきたいそうです。

金継ぎに対するポリシー

現在、全て伝統的な手法で行う金継ぎと、簡便化し接着剤などを用いた簡易金継ぎと呼ばれる手法があり、それぞれに利点があると思います。子育てをされて時間のない方や、お金をそれほど出せない方など、人それぞれのご事情があるため、職人さんとしてはしっかりと説明した上で、お客様に時間・費用などの切り口から選んでいただきたいとのことです。その中で、少しでも漆を使って、皆様に漆のことを知っていただければご満足であると伺いました。作り手の意見を押し付けるのではなく、お客様のニーズを汲んで、かつ漆を知ってもらいたいというご意向が伝わってきました。器を直して、また使っていただけるようになるのは、うれしいことです。

金継ぎマッチングプラットフォームについて

取材者Yukiは、金継ぎや伝統工芸を一般の人にもっと普及させ、職人さんにより活躍してもらいたいと思い、インターネット上にマッチングプラットフォームを構築したいと考えています。これについてご意見をお願いしたところ、以下のようなご意見をいただきました。

「一般の方々は器が壊れた時に、どこに修理をご依頼すれば良いか分からない人が多くいらっしゃると思います。また職人さんにとっては、納期などしっかりお伝えすれば、その気持ちに応えることができると思います。」

年齢の近い職人さんに応援いただけて、大変うれしく思っております。

最後に

取材時には秘密にしておりましたが、私より若い平井さんご夫婦にお会いし、好きな手仕事で漆産業の一部を担い、楽しく生活されているご様子を伺い、元気をいただきました。次世代の生き方の一つの選択肢として、平井さんがそのご活動を情報発信してくださることで、より多くの方に金継ぎ・漆に興味をもっていただき、さらにこの業界が盛り上がることを願っております。

立派な漆風呂の前で、平井さんご夫婦とお写真を撮らせていただきました。

ありがとうございました!! by Yuki

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