2026年6月17日、京都伝統工芸大学校の2年生向け授業「伝統産業論」にて、株式会社つぐつぐ代表・俣野由季が講演を行いました。
今回の講演は、京都伝統工芸大学校より、「伝統産業とその隣接領域に携わる実務家の話を、学生の進路を考える機会として届けたい」とご依頼いただいたことをきっかけに実現しました。
同校の卒業生がつぐつぐで活躍しているご縁もあり、未来の伝統工芸を担う学生に向けて、金継ぎを仕事にしてきた実務の現場からお話しさせていただきました。
京都伝統工芸大学校は、漆工芸、蒔絵、陶芸、木彫刻、仏像彫刻、木工芸、金属工芸、竹工芸、京手描友禅、和紙工芸など、幅広い伝統工芸分野を学ぶことができる学校です。実習を重視した環境の中で、学生が日々手を動かしながら、工芸・ものづくりの技術を磨いています。
当日は、約70名の学生に向けて、
「伝統技術は、『好き』だけで続けられるのか? — 金継ぎで起業した私の、失敗と挫折のリアル —」
というテーマで講演しました。
「好き」から始まった金継ぎ。でも、好きだけでは続かなかった

講演ではまず、俣野が薬学部を卒業後、製薬会社勤務、海外留学、MBAを経て、まったく異なる分野である金継ぎの会社を起業するに至った経緯を紹介しました。
一見すると、薬学や製薬会社での経験と金継ぎは関係がないように見えます。けれど実際には、品質管理、安全性への意識、説明責任、海外での経験、MBAで学んだマーケティングやリサーチなど、これまでの経験がすべて現在のつぐつぐの事業に生きています。
講演では学生に向けて、
「将来は、今決めた通りに進まなくても大丈夫。けれど、目の前のことを120%で取り組んだ経験は、あとから必ずつながる」
というメッセージを伝えました。
学生からも、「将来の可能性が広がった」「今の経験を大切にしたい」といった感想が寄せられました。
伝統技術を仕事にする難しさ
つぐつぐは現在、金継ぎ教室、修理サービス、ワークショップ、金継ぎキット販売、海外向け通信販売、金継ぎ検定など、さまざまな事業を展開しています。
しかし、最初からすべてを計画していたわけではありません。
事業が広がっていった背景には、お客様の声がありました。
「顔が見えない職人に、大切な器を預けて本当に大丈夫だろうか」
「修理後の金のラインやデザインが、好みに合うだろうか」
「後から追加料金がかかるのではないか」
「どれくらい時間がかかるのだろう」
「修理後の耐久性は大丈夫だろうか」
そうした不安や疑問に向き合い、一つひとつ解決する形で、つぐつぐのサービスは少しずつ広がっていきました。
講演では、MBA時代に行ったアンケート調査を通じて、お客様の不安を把握し、事業づくりに活かした経験も紹介しました。
学生からは、「事業のヒントはお客様の悩みの中にある」「技術だけでなく不安を理解することが大切だと感じた」といった声が多く寄せられました。
良い技術があるだけでは仕事にはなりません。その価値を分かりやすく伝え、お客様が安心して選べる形にすることが必要です。
信頼される会社であるために
つぐつぐが大切にしていることの一つは、「良いことばかりを言わない」ことです。
修理が難しい理由や価格の根拠、必要な期間を丁寧に説明し、無理に依頼につなげるのではなく、その方に合った選択肢をお伝えすることを心がけています。
修理後の見た目や耐久性についても、できること・できないことを曖昧にせず、事前に分かりやすくお伝えする。
その上で、お客様に納得して選んでいただく。
こうしたコミュニケーションの積み重ねが、信頼につながると考えています。
学生からも、「作る側だけでなく使う側の視点が必要」「お客様との信頼関係の大切さを学んだ」という感想がありました。
チームで伝統技術を届けるということ
講演では、伝統工芸に関わる仕事は、独立して技術を追求する道だけではないこともお話ししました。
つぐつぐでは、教える人、修理する人、お客様に説明する人、海外に発信する人など、それぞれの得意を持ち寄ることで、一人では届けきれない価値を生み出しています。
学生からも、「技術だけでは伝統は続かない」「周囲と連携しながらものづくりをしたい」「伝える力を磨きたい」といった声が寄せられました。
伝統技術を未来につなげるためには、一人の才能だけでなく、チームで同じ方向を向く力も重要だと考えています。
技術だけでなく、速さ・行動力・体力も大切
講演では、職人として仕事を続けるためには、技術力だけでなく、速さや行動力、体力、コミュニケーション力も必要だとお話ししました。
仕事には納期があり、限られた時間の中で高い品質を実現することも重要な技術です。
また、海外留学や海外のお客様とのやり取りの経験から、英語力や異文化理解の重要性についても紹介しました。
学生からは、「速さは雑さではなく技術であるという言葉が印象に残った」「技術に加えて体力や発信力、語学力も必要だと感じた」「将来は海外の人にも作品の魅力を伝えたい」といった感想が寄せられました。
英語力が広げる伝統工芸の可能性
今回の講義後に提出されたレポートでは、英語の重要性について言及する学生が多く見られました。
伝統工芸の世界では、国内市場だけでなく海外市場への発信や販売、海外の顧客とのコミュニケーション、国際的な展示会への参加など、英語を活用する場面が年々増えています。
実際につぐつぐでも、海外のお客様からの問い合わせ対応やオンライン販売、海外向けの情報発信を行っており、英語力が新たな機会を生み出しています。
学生からは、「海外の人にも作品の魅力を伝えたい」「英語を学ぶことで活動の幅が広がると感じた」「日本文化を自分の言葉で説明できるようになりたい」といった声が寄せられました。
また、単に英語を話せることだけでなく、異なる文化や価値観を理解しながら伝える力の重要性についても、多くの学生が関心を示していました。
これからの伝統工芸は、日本国内で技術を磨くだけでなく、その価値を世界へ届ける視点も求められます。英語力はそのための大切な手段の一つであり、将来の可能性を大きく広げる力になることをお伝えしました。
伝統技術を続けるために、利益も大切
伝統技術を未来につなぐためには、想いや技術だけでなく、事業として続けられる仕組みも必要です。
利益があるからこそ、社員に給与を支払い、人材を育て、サービスを改善し続けることができます。
講演では、価格や利益の話から逃げず、適切な価値に対して適切な対価をいただくことの大切さもお伝えしました。
学生からも、「事業としての仕組みづくりが重要」「利益がなければ継続できないことを実感した」といった声がありました。
学生と一緒に考える時間
当日は、学生にも、自分が学んでいる技術を将来仕事にするとしたら、お客様がどのような期待や不安を持つのかを考えていただきました。
レポートでは、木工、陶芸、漆工芸、仏像彫刻など、それぞれの専攻と結びつけながら、自分の将来について考える姿勢が多く見られました。
「伝統の分野に関わり続けたい」「作品を多くの人に届けたい」「修復や文化財保存にも携わりたい」「技術だけでなく説明する力も身につけたい」など、将来への具体的な展望が数多く寄せられました。
学生の感想から

講義後のレポートでは、学生がそれぞれの進路や専攻に引き寄せながら真剣に考えてくれていることが伝わってきました。
特に多かったのは、
・技術だけでなく、お客様の不安やニーズを理解することが大切
・価値を分かりやすく伝える力が必要
・行動力、体力、継続力、チームで働く力も重要
・起業や海外展開など、多様な進路の可能性を知った
・今学んでいる技術を社会にどう届けるか考えたい
・海外発信のために英語力も身につけたい
といった内容でした。
学生が講義を通じて、自分の将来や技術の活かし方について主体的に考えてくれたことを、とても嬉しく感じています。
未来の作り手へ
今回の講義を通して、俣野から学生に伝えたかったことは、伝統技術は「好き」という気持ちだけでは続けられないけれど、「好き」という気持ちがとても大切で、自分が楽しそうに仕事をすることで、お客様にもそれが伝わるということです。
そして、その技術を未来につなげるためには、技術力に加えて、お客様の不安を理解する力、分かりやすく伝える力、チームで働く力、時間内に高い品質を出す力、そして事業として続ける力が必要です。
さらに、これからの時代は国内だけでなく海外へ目を向けることも重要です。伝統工芸の価値を世界に伝えるためには、語学力や異文化理解も大きな力になります。
つぐつぐは、金継ぎを通して日本の伝統技術の価値を国内外に伝えるとともに、これから伝統工芸の世界に羽ばたく学生を応援しています。
今回の講義が、学生にとって、将来の進路や働き方を考える一つのきっかけとなれば幸いです。
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