漆、あるいは金継ぎの経験がある方が、将来もそのような職業に就きたいと志願し、つぐつぐに応募されることがよくあります。経験者としてつぐつぐに入社した人の育成の流れや、毎日どのような業務を行っているのかリアルに知っていただくため、金継ぎ経験のある新卒のBさんのモデルケースを紹介させていただきます!
高校で3年間漆を学び、大学で自分で金継ぎを経験、新卒でつぐつぐに入社したBさんのケース
つぐつぐの金継ぎ師ポジションに応募した志望動機
漆を本格的に学んだのは高校時で、大学では芸術学部のデザイン学科に進みましたが、大学の課題で「金継ぎショップ」の企画提案を手掛けました。子供と親の思い出に残るものになるよう、金継ぎを魅力的に見せる研究課題で、より一層金継ぎに興味を持ったとのこと。漆はかぶれる可能性があって手を出しにくい固定概念があるのを打破したいと在学中に考えいて、SDGsなどの環境問題にも関心がありました。そんな中、つぐつぐは割れた器をアップサイクルして金継ぎしたり、金継ぎ器を販売・レンタルするなど、幅広い活動を行っていることが魅力でした。高校では一人でこもって作業することが多かったですが、大学では通常接することのないような人とも関わりながら課題研究をしました。そして、今後も広い視野で活動したいという気持ちがありました。
Bさんは関西の大学に通っていましたが、つぐつぐが全国放送のテレビに出ているのを見て知り「日本の伝統的な手仕事をもっと身近に!」というビジョンに強く共感し、新卒も募集しているかも分からない中、つぐつぐに直接履歴書をメールで送り応募しました。
入社前にインターンシップで金継ぎを経験!
新卒の応募は、卒業する1年くらい前にあります。そのため、入社1年前にウェブ面接して内定を受けました。その半年後の夏休みには、5日間だけ東京に来てつぐつぐ恵比寿店でインターンシップを行いました。1日8時間(中、休憩1時間あり)のインターンシップ中は、ほとんどずっと金継ぎの練習を行いましたが、当時は蒔絵キット発売前だったことから、イラストレーターによるデザインができる強みを活かして、蒔絵キットの図案作成も手伝いました。
入社から金継ぎ師デビューするまでの道のり
そして翌年4月、晴れて社会人として世に出たBさん。つぐつぐは金継ぎの「会社」なので、組織・チームワークです。社会に出て会社で働くとはどういうことか、社内での動き方を学びながら、金継ぎの技術も磨いていきます。
金継ぎ師ポジション入社1ヶ月目
つぐつぐでの金継ぎの手法が、大学の時の本を読んで独学で行っていた金継ぎの手法と異なっていたため、まずはつぐつぐのやり方を覚えることから始まりました。金継ぎは、職人さんによって手法が大きく異なり、一人として同じやり方はありません。つぐつぐは、そのいろいろな手法を全て把握した上で、(自称)最もシンプルかつ美しく仕上がる方法を確立しました。(補足:他の手法が間違っているとか、悪いというわけではありません。)つぐつぐに通ってくださる全ての生徒さん、そして、つぐつぐが販売する金継ぎキット「つぐキット」で一人で金継ぎする方が統一した金継ぎ手順を学べて、また混乱を招かないよう、つぐつぐのどの講師も同じ手法を教えることを目指しているからです。金継ぎ経験者であっても、再度、つぐつぐ金継ぎ手順・基礎を学び直すことから始まります。
大学では、自分で素材を集めて好きにやっていた金継ぎですが、つぐつぐに入社してからは、どこまで研げば良いかや、どれだけ厚く塗って良いのかを細かくチェック・指導されます。そして「電動ルーター」でヒビを掘ることは初めてだったとのこと。つぐつぐの金継ぎ修理では、金継ぎ修理の耐久性を上げるため、電動ルーターでヒビに溝を掘ることが必須です。(他の職人さんはカッターなどで行うこともあるようですが、電動の方が早いため)しかし、少しでも手が震えて誤ったところを掘ると不要な傷をつけてしまうため、金継ぎの最初にして最も慎重に行うべき工程。さらには破損の種類や器の性質によって、工程も思った以上にいろいろあります。最初からお客様からご依頼された器を触ることは許されないため、金継ぎ事業部長が器をいくつか渡し、電動ルーターの使い方の練習をたくさんしました。
また社会人1年目のため、言葉遣いから随時指導され、電話対応も初めて行いました。突然かかってくる電話を取るのが怖かったですが、当時の事務の方が電話応対マニュアル作ってくれたおかげで、それを見ながらお話しでき、助かりました。他には、これまでアルバイトなどでレジを触ったことがなかったので、初めてレジを打って現金の授受をすることも経験しました。パソコンは、これまで私物のMacしか使ったことがなかったので、Windowsのパソコンを初めて使いました。金継ぎ師ポジションといえど、顧客情報の管理・入力など、会社のパソコンで入力することがいくつかあります(主にGoogleドライブ、スプレッドシート、docsなどを使います)。そして接客では、お客様・生徒様の顔を覚えてすぐにお名前で話しかけられるように意識していました。
先輩の指導を聞いてメモを取ってもまた忘れてしまい、申し訳ない気持ちになることが多くありました。先輩の手を煩わせずに、自分で好きな時に確認できるよう、これから入社される新人さんのためにもっとマニュアルがあるといいなと考えています。
先輩にどのタイミングで質問していいか配慮して相談する点など、気遣いがありますね。自分が入社した時に困った経験を活かして、次に入社される人のために、気づいたことがあればぜひ自らマニュアルを作ってあげてほしいです!(小さい会社なので、待っていたら誰かが作ってくれる、というのが難しいので…)みんなでより良い会社にしていきましょう!
社長コメント
金継ぎ師ポジション入社2ヶ月目
漆芸と金継ぎの経験があるため、金継ぎ教室講師としてのデビュー目標が未経験の方より早く、2ヶ月目から講師としての練習が始まりました。3ヶ月目にはデビューを目指しています。
金継ぎ教室の講師になるための特訓方法は、先輩が生徒役をして自分が講師として教え、その反対(先輩が講師として自分に金継ぎを教える)も行いました。また、当時新しく入社した金継ぎ未経験の社員に教える練習をしたことで自信がつきました。しかし1つの工程にたくさんの指導ポイントがあるため、2〜3工程の練習に1〜2時間程かかり、なかなか前に進みませんでした。
講師の特訓と並行して金継ぎ修理も行っていたのですが、Bさんの修理スピードは先輩方よりまだまだ遅いため、社内目標の期日に遅れてしまったことがショックでした。時間配分の難しさを痛感しました。
金継ぎ師ポジション入社3ヶ月目
金継ぎ教室講師の社内特訓を終え、ついに実際の生徒さんにも教える日が来ました!最初から多数の生徒さんに教えるのは大変なので、まずは先輩の補助付きで1名のみの生徒さんに教え、その後徐々に自分が一度に教える生徒数を増やしていきます。最初は3名の生徒様に教えるのもキャパオーバーだと感じたそうですが、今では6名以上に教えています!教える経験を積んで、慣れていったそうですが、なんと、5〜6回目で慣れたとのこと!
金継ぎ講師は、実戦あるのみです!慣れます!
Bさんコメント
金継ぎ師ポジション入社4ヶ月目
Bさんは3ヶ月間、つぐつぐ恵比寿本店で金継ぎの様々な特訓を受けた後、浅草店に配属になりました。そして、実際に金継ぎ教室のクラスを受け持つべく、現在の講師から引き継ぎを受けました。
恵比寿店と浅草店で、店舗の雰囲気が違うと感じたそうです。店舗の大きさやデザインも異なりますが、モノの配置場所だけでなく、通われる生徒さんの雰囲気も異なりました。
恵比寿店にはプロ金継ぎ師を目指して通われる生徒さんも多く感じましたが、浅草店はどちらかというと、金継ぎしながら会話を楽しみにくる方が多く、ゆったり、のんびりした雰囲気だそうです。そのため、金継ぎの適切な指導は当然のこと「トーク力」が必要だと感じたそうです。Bさんは自分より年齢の高い生徒さんと世間話もしながら、金継ぎの指導をし、空いた時間には金継ぎ修理も行うというマルチタスクをこなしていきました。
Bさんに「新卒なのに自分より年齢が高い方とお話しするのは難しかったですか?」と聞いたところ、「実は年齢が高い方の方が話しやすいんです。昔アルバイトで、年上の方々に囲まれて働いた経験があったので。」とのこと。金継ぎ教室では、毎週・長期間通われる年齢層が高めの生徒さんが多いですが、1時間で金継ぎの仕上げだけ体験できる「金継ぎワークショプ」には、若いお客様も多いです。
金継ぎ師ポジション入社5ヶ月目
金継ぎ教室の講師として浅草店で担当し始め2ヶ月で慣れたそうですが、浅草3ヶ月目から新規で教室に入会されるお客様が増えました。新規の生徒さんは、初回、割れた器をたくさん持ってくるので、講師がそれをみて金継ぎ修理計画を、その場で即座に決定して進めます。瞬時に器を見極め、生徒さんに今後の計画順序をお伝えするのはなかなか難しいのですが、それも場数を踏みながら、難なくできるようになっていったそうです。
この5ヶ月目には、1時間で金継ぎの仕上げだけ体験できる「金継ぎワークショプ」の講師としてもデビューしました。つぐつぐでは、漆を使った「伝統金継ぎワークショップ」と、うるしかぶれが起きないよう合成接着剤でシーグラス・シー陶器をくっつけて金継ぎ風のアクセサリーにする「簡易金継ぎワークショップ」の2種類を行っているのですが、先輩に10〜15分ほど教えてもらっただけで、できるようになったそうです。金継ぎ経験があったことと、すでに難易度の高い「金継ぎ教室の講師」として場数を踏んでいたため、1時間限りのワークショップで教えるのは全く難しくなかったとのことです。
しかし、参加してくださったお客様により満足していただける教室・ワークショップができるよう、ボイスレコーダーで先輩の講義・ワークショプの声を録音し、自宅でもう一度聞いてノートにまとめ、人知れず改善してきたそう。その場でメモしきれないことが多いので、録音が役だったそうです。
会社が提供する教育以外に、お客様によりよいサービスを提供したい一心で自分で工夫して上達していったなんて、新卒とは思えないほど素晴らしいですね。心を打たれます。スマホのアプリなど最近の若者の方が詳しくて慣れているので、今後も新しい方法を提案して欲しいです!
社長コメント
金継ぎ師ポジション入社6ヶ月目
6ヶ月目は、これまで学んだことや業務を繰り返し行っていきました。この頃から1時間のワークショップに参加されるお客様の数が増え、より慣れていったそうです。金継ぎのやり方を教えるだけでなく、金継ぎの歴史など深いこともお客様に知っていただくため、つぐつぐには「金継ぎ紙芝居」があるのですが、その紙芝居を使ったプレゼンも上達していったようです。また伝統金継ぎと違い、簡易金継ぎのワークショップでは、合成接着剤で1から作り上げその日にアクセサリーをお持ち帰りいただくのですが、接着剤が硬化するまで、途中10分くらい待ち時間があります。この時間を、ただ待つのではなく、どう楽しんでいただくかを追求しているそうです。
そんなBさんは、今やつぐつぐ内でトップクラスに、自分が受け持つ金継ぎ教室1講座に参加される生徒数が多いのです!今、つぐつぐ内でデビューに向けて特訓中の他の社員へ、Bさんからメッセージをいただきました。
誰しも金継ぎ教室の講師なんて、やったことがない。でも、やりながら、教えながら、自分も勉強して、真剣にやれば、生徒さんもついてきてくれるはずだから、心配しないで!
Bさんコメント
金継ぎ師ポジション入社7ヶ月目
6ヶ月の見習い期間が終わり、7ヶ月目に正社員となりました。改めて頑張ろう!と意気込みました。
金継ぎ教室の講師としても慣れてきて、時折、「生徒さんはこれについてはもう分かっているだろう」と思い説明を簡略化していることがある自分に気づいたそうです。そして、「それはやめよう」と心に思ったそうです。例えば、説明一つに時間をかけてみるとか、絵・言葉・矢印など図を書いて説明してみたりを始めました。続けて通ってくださっている生徒さんが来られる時には、事前にどんな器だったか、これまでの申し送りを見て予習しておくと、人数の多いクラスでも安心とのこと。どんどん新規入会の生徒さんが入ってきますが、最初の工程をしっかりと教えるのが大切です。金継ぎが上達してくると、「ここをちょっとこうしてみよう」と自己流のやり方を思いついてしまうものですが、それを抑えてつぐつぐで習った基本に忠実に、全員にスタンダードなやり方を教えるのが大切だと感じていました。
これからも、初期の気持ち大事にしようと思うんです。
Bさんのコメント
金継ぎ教室の生徒さんが長期間お休みされていて、数ヶ月経ってからクラスに戻ってこられた時に、今の自分と過去の自分が同じように教えられてるか、自問自答したそうです。
金継ぎ教室に参加される生徒さんは、みな細かい作業が得意なわけではありません。手作業が苦手な人、大雑把な性格の方、また性別によっても、同じ説明をしても理解の仕方が異なるそう。ある時、Bさんが教えた時にうまくできなかった生徒さんが、先輩のクラスを受講し、先輩がゆっくり丁寧に教えたら理解してできるようになったことがあったそうです。
この人はできない、なんて絶対に決めつけず、そういう方にこそ、より丁寧に、倍時間をかけて教えてあげようと誓いました。
Bさんコメント
金継ぎ師ポジション入社8ヶ月目〜1年
浅草店がオープンして1年半が経ち、生徒数はどんどん多くなってきました。浅草店は恵比寿店より店舗が大きいため、1コマに10名まで参加できますが、6人を超えたら先輩に手伝ってもらっています。生徒数が多くなるのは嬉しい反面、1人の生徒さんにかける時間少なくならないよう、より多くの気配りをしているそうです。生徒数が増える中で、1人1人の生徒さんの満足度をどう上げるか、常に考えています。生徒さんによりよくしてあげたいと思い、希望があれば作業を手伝ってあげることもあるそうです。(ただし、全部自分だけでやりたい、という生徒さんの作品には手を出しません)
Bさんは準備を大切にしていました。教室・ワークショップがある時は、その1時間前までに準備しておき、準備してからお昼休憩を取るようにしています。
一人で十分業務ができるようになりましたが、まだ恵比寿店から浅草店へ、先輩2名が週1回ずつ訪れて指導をしています。今の自分に甘んじることなく、これからも成長を続けてほしいです。
金継ぎ師ポジション入社からもうすぐ1年のBさんの今後の目標
つぐつぐでは毎月たくさんの金継ぎ修理のご依頼をいただいています。信頼をモットーにしている会社なので、お約束した納期には絶対に間に合わせます。実際にお約束した納期を確実に守るために、それより早い日に「社内目標の納期」があります。Bさんの今後の課題は、一言で言うと、「効率性」だそうです。Bさんは修理スピードと効率性を高めて、余裕を持って社内納期を遵守できるようになりたいそうです。
また、修理に加えて金継ぎ修理と教室・ワークショップ講師も両立し、計画を立ててどんどん動いていきたいとのこと。まだ自分の立ち回りに無駄なことがあるのでは?と感じているそうです。
「無駄を解消するためには、どうすればいいですか?」と質問したところ、「先輩に聞くのが一番ですが、聞きすぎないように、お互いの時間を尊重して相談していきたい」とのこと。しかし、つぐつぐに決して聞きづらい環境はないそうです。話せる時には、よくしゃべって、よく相談します。最近よく相談することとしては「どうすればワークショップがもっとよくなるか?」「もっとお客様の満足度を上げられる点はあるか?」があります。その度に、先輩が良い回答を丁寧に答えてくれるそうです。そして金継ぎ事業部長には、品質チェックの際に、金継ぎ技術に関する改善点を聞いたりもしています。
これから金継ぎ師ポジションを志願して応募される方へのメッセージ
金継ぎ未経験で入社したAさんも別の記事で話していたように、金継ぎ師といえど、意外に接客が多いことを理解した上で応募された方がよいです。そして、「しゃべり」が重要とのこと!
勢いでいける人、パッションがある人が向いていると思います。その心は、突然外国の方が店舗を訪れた時、英語が話せなくても、身振り手振りで説明することがよくあるからです。消極的な方、1人で黙々と金継ぎだけしていたい方は、あまりつぐつぐの仕事には向いてないです。逆に、これまでの人生で、アルバイトでもいいので接客業をやってきた方は向いてると思います。金継ぎの経験がある方より、接客に慣れてる人の方が、つぐつぐに入社してから1人前になるのが早いのでは?結局、つぐつぐの金継ぎ方法については最初から学ぶことになるので…。
そして、自分で金継ぎするだけでなく、教えながら学ぶことも多いです。手作業が好きであれば、技術は後からついてきます。苦手でも練習していけば、絶対にできます。
浅草店で言えば、ゆったりした空気が流れているので、おだやかな人がいいかな…お客様との会話も重視しているので(笑)談笑できて、ほんわかしている人が入ってくれたらいいな。
最後に
つぐつぐ創業から3年目、初めて新卒として採用したのがBさんでした。会社として、新卒に、金継ぎだけでなく社会人としてのマナーからきちんと教育できるのか?という不安もありましたが、期待以上に頼もしく成長していました。生徒さんに寄り添った丁寧な指導で、ファンが多く、よくお礼のお菓子をもらっています(笑)。今後、Bさんの後輩が入ってきた時に、今までの経験を活かして、先輩としても第一線で活躍していってほしいと思います!
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