こんにちは、つぐつぐの俣野です。
金継ぎを楽しく、安心して続けていただくために、今回は「漆かぶれ」について知っておきたい基本的な知識と予防の工夫をまとめました。
ご自宅での作業はもちろん、金継ぎ教室へお越しくださる生徒様にも役立つよう、実体験や金継ぎ師からの聞き取りをもとに、わかりやすくお伝えします。
よりリアルな症状の経過を知りたい方は、実際の体験に基づく以下のブログもあわせてご覧ください。
漆かぶれとは?
漆(うるし)かぶれは、漆の主成分「ウルシオール」が皮膚に付着することで起こる、接触性皮膚炎の一種です。これは、アレルギー反応の一つでもあります。
液状の漆が皮膚に触れると、表皮からウルシオールが侵入し、それを排除しようとする体の防御反応によって、赤み・かゆみ・腫れ・水ぶくれといった炎症が発生します。
完全に硬化した漆(漆器)は安全です

「漆って危険なの?」というご質問をいただくことがありますが、完成した漆器や乾燥後の金継ぎ作品は安全です。
漆がアレルギーを引き起こすのは、液状の状態のときのみ。完全に乾燥・硬化した後は、ウルシオールの活性が失われるため、食器として安心してお使いいただけます。
漆かぶれを防ぐための基本的な対策
金継ぎを行う際は、漆が皮膚に直接触れないように予防策を徹底することが何よりも大切です。
作業時の服装と注意点

- ゴムやニトリル製の手袋を着用(使い捨てタイプがおすすめ)
- 長袖とアームカバーで肌の露出を避ける
- 髪はまとめて、顔まわりにかからないようにする
- エプロンなどで衣類もカバー
- 作業後は机や道具を丁寧に拭く(乾いたように見える刻苧を研いだ粉などもかぶれの原因になります)
自宅で作業される方へ:特に注意したいポイント
- 換気をする:風やほこりが舞っていると金継ぎの作業に支障がありますが、(ほぼ匂いはありませんが)揮発した漆がこもりすぎないようにする
- 作業中は飲食を避ける
- 小さなお子様やペットが近づかない環境をつくる
- 使用後の手袋や布はすぐに処分する。特に手袋は汚れていないと思っても、毎回新しいものに取り替える。
漆が皮膚についてしまったら?

万が一、液状の漆が肌についてしまった場合は、次の手順をできるだけ早く行ってください。
- 油で優しく拭き取る(酸化しにくい菜種油・キャノーラ油がおすすめ。なければオリーブオイルやサラダ油でも可)
- ティッシュで油ごと拭き取る
- 石鹸と水でしっかり洗い流す
こすりすぎは皮膚を傷める原因になりますので、やさしく丁寧に行うことがポイントです。
かぶれたときにやってはいけないこと
- 自己判断で薬を塗り続ける
- 油でゴシゴシこする
- 「放っておけば治る」と軽視して放置する
症状が軽いうちに、皮膚科を受診することをおすすめします。
漆が皮膚についても、かぶれない場合もある?

ちらの写真は、作業中に手袋が破れていたことに気づかず、指先に漆がついてしまったときのものです。
このときは金継ぎではなく、「拭きうるし」と呼ばれる広範囲に漆を塗る作業を行っていました。
すぐに油でやさしく拭き取り、石鹸と流水で洗い流したものの、気づくのが遅かったため、指先に茶色いシミが2〜3日残りました。
ところがその後、こまめに洗浄を続けていた結果、かゆみや炎症はまったく出ず、自然にきれいに消えました。
このように、漆が皮膚に付着しても、必ずしもかぶれるとは限りません。
特に手のひらは、手首や腕などの皮膚が薄い部分に比べ、かぶれにくいと言われています。
とはいえ、油断は禁物です。必ず手袋を着用し、万が一の接触にも備えましょう。
また、「何度も漆に触れていれば、かぶれにくくなる」という話を耳にすることがありますが、私がこれまでお話しした金継ぎ職人の方々の多くは、今でも定期的にかぶれてしまうそうです。
経験や技術によって、漆に触れないようにうまく作業を行う職人さんもいますが、そういった方でも決して油断せず、注意深く作業されています。
中には、あえて手袋を使わずに作業する職人さんもいますが、それは技術と経験に裏打ちされた判断です。
初心者の方は必ず、手袋やアームカバーなどの保護を徹底してください。安全に楽しく金継ぎを続けるためにも、予防が何より大切です。
漆かぶれに季節や体質は関係ある?
私的な見解ですが、冬よりも夏の方がかぶれやすいような気がします。理由は、暑いため半袖で作業する方が多く、完全に固まった(と思った)漆を研いで、その粉が机の上におち、知らず知らずのうちに漆の粉が手首についてかぶれが発症したり汗をよくかくため、漆の粉が湿った皮膚に接触し、付着しやすい、などが可能性として考えられます。
また体調や体質も、皮膚が漆負けしてしまうことの要因の一つだと思います。
私は子供の頃からアトビー性皮膚炎を患っていて、普通の人より皮膚が乾燥していて敏感だと思うので、日頃から皮膚の保湿は大切にしています。しかし、私は夏にも冬にも、腫れ上がるようなひどいかぶれを経験したので、漆が皮膚に付いたら季節に関係なくかぶれる可能性があると、個人的には考えています。
「繰り返すと耐性ができる」という噂について

「漆に何度も触れていると、かぶれにくくなる」という話を聞くことがありますが、これは個人差が大きく、確実な根拠はありません。
長年漆に触れている職人さんでさえ、定期的に漆かぶれを起こしているという声もあります。
漆かぶれが治るまでの期間
ここでご紹介するのは、あくまで私自身の体験や、周囲の方々から伺ったお話をまとめたものです。医学的な根拠に基づくものではありませんので、あくまで一例としてご覧ください。
- 比較的軽いかぶれの場合:数日から1週間程度で落ち着くことがある
- 強いかぶれや広範囲に症状が出た場合:2週間以上かかることもある
また、漆に触れてすぐではなく、数日経ってから症状が出るケースもあるようです。
漆かぶれの経過や回復のスピードは、人によって大きく異なります。少しでも不安を感じる場合は、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。
私自身が金継ぎ作業中に漆かぶれを体験した際の、2週間の経過写真と記録をまとめた記事もありますので、参考までにご覧ください。
漆かぶれはうつるのか
漆かぶれは、漆に含まれるウルシオールという成分が皮膚に直接触れることで起こるアレルギー反応の一種(接触性皮膚炎)です。漆かぶれは、人から人へ感染することはないと考えています。
ただし、漆を扱った手で道具や家具に触れ、その表面に漆が付着した場合、他の人が気づかずにその部分に触れて、かぶれを起こしてしまう可能性があります。
金継ぎ作業では、漆が作業台や道具、衣類などに付着しないよう、細心の注意を払うことが大切です。
安心して金継ぎを楽しむために

金継ぎは、日常を豊かにしてくれるすばらしい手仕事です。正しい知識と備えがあれば、漆かぶれのリスクを最小限にしながら、安全に金継ぎを楽しむことができます。
教室では、講師が生徒様一人ひとりに合ったサポートを行っています。初めての方でも安心してご参加いただけますので、ぜひお気軽にお越しください。
最後に
株式会社つぐつぐを立ち上げてから約1年。これまでに金継ぎキットの販売やYouTubeでの発信を通じて、たくさんの金継ぎ初心者の方々からご質問やご感想をいただいてきました。
当初はメールで一つひとつ丁寧にお返事していたのですが、
「やっぱり教室で先生に見てもらいながら金継ぎしたい」
「かぶれや漆の扱いが不安なので、直接教わりたい」
という声が増えてきたこともあり、本格的な金継ぎ教室の開講を決意しました。
私は教育者の家系で育ち、人に教えることが自然と好きでした。
自分自身が初心者だった頃の気持ちを忘れず、できるだけわかりやすく、楽しく学べる教室づくりを心がけています。
教室では、講師が漆の扱いや安全対策についてもしっかりサポートしているため、ご自宅で一人で作業するよりも安心感を持って学んでいただけます。
ただし、どんな環境でも100%かぶれを防げるという保証はありませんので、正しい知識と準備のもと、慎重に進めることが大切です。
ご自宅でじっくり取り組みたい方には、「つぐキット」などの金継ぎ道具一式を使った自習スタイルも応援しています。
不安な方は、まずは教室で一緒に学びながら金継ぎを体験してみてください。
きっと、楽しくて奥深い金継ぎの魅力を、安心して味わっていただけるはずです。
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