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大きな欠けは金継ぎ修理できるの?破片を無くしてしまった時の対処法!

金継ぎ修理を月100個以上受け付けている、東京にある金継ぎ専門の工房、つぐつぐです。

つぐつぐの恵比寿本店や浅草店に割れた器を持ち込まれる数が増え、金継ぎが皆様の生活に少しずつ浸透してきたのかなと、嬉しく思っています。さて今回は、よくある質問の一つである、「割れた器の破片の一部を無くしてしまったんですが、金継ぎで修理できますか?」という問いにお答えしていきます。

割れたお茶碗など大きな破片がないことは、私たちが受ける修理の中でもよくある事例です。割れたお皿を持ち込まれて、お客様の目の前で金継ぎ師が仮に組み立てて見せたときに、あら、なかったわ!と気づかれることもしばしば。さて、このような場合、修理は可能なのでしょうか?

大きな欠損のある器の金継ぎ修理に時間がかかる理由

正直のところ、金継ぎ修理では大きな欠損を修理するのはとても時間がかかります。どうして大きな欠けは修理が難しいのでしょうか?

金継ぎ修理で使う主な材料である漆(うるし)は、漆の木から採れる天然の樹液で、縄文時代からモノが壊れたときに接着剤や塗料として使われてきました。この漆は、硬化するのに特別な条件下で一定の時間がかかります。漆を塗った修理品は、温度20〜30℃かつ湿度70〜85%の両方を満たした、「漆風呂(うるしぶろ)」または「室(むろ)」と呼ばれるチリやホコリを排除した棚で乾かします。最適な条件下では、薄く表面に塗った漆は約8時間で乾くと言われていますが、割れた器の接着など陶器の芯までしっかり乾かすには1週間以上置いておくべきとされています。そのため、欠損を埋める漆のパテも乾かすのに時間が乾くだけでなく、一度に埋めることができる厚さは1mm未満とされています。(厚塗りすると芯がずっと乾かなかったり、乾くのにより一層の時間を要します)私たちは、1mm未満埋めては乾かし、また1mm未満埋めては乾かし…を繰り返し、やっと穴や欠損を埋め切ることができるのです。

(↑つぐつぐの工房にある漆風呂)

では、そもそも、大きい欠けとはどれくらいのサイズでしょうか?

欠けの種類別!金継ぎ修理の方法と難易度

つぐつぐ金継ぎ師の肌感覚ですが、直径1.5cm以上かつ向こう側が見えるような欠損は、修理作業が大変な印象を受けます。「向こう側が見える」欠損、というのがポイントです。同じ欠けでも、表面が削れたような欠けは埋めやすいです。

①向こう側が見える大きな欠損

(↑向こう側が見える、大きな欠け。埋めるのにかなり時間がかかりそう。)

こちらは、水差しの先が割れて、その破片はなくなってしまったケース。一辺2〜3cmくらいの三角形の欠損です。ちなみに写真からはわかりにくいですが、ちょうど水を注ぐ先の部分のため、絶妙に先が尖った形をしており、復元は難易度が高いです。このような場合は、通常使用する漆パテで少しずつ埋めていく作戦だと、気の遠くなるような月日がかかるでしょう。

②少し向こう側が見える欠損

(↑少し向こうが見えるが1cm未満の欠け。これならなんとか埋められれそう。)

お皿の縁が欠けており、少しだけ向こう側が見えています。横には長い(2cmくらい)ですが、向こう側が見える欠損の縦幅は1cm未満(おそらく3mm以下)なので、漆パテで3回くらいに分けて埋めることで修復できそうです。

③器の表面が剥がれたような欠損

(↑表面が剥がれたような欠け。よくある欠け。)

こちらもよくある器の縁の欠けですが、片方の面が剥がれたような形でかけています。(厳密にいうと少しだけ向こう側が見える欠けですが、1mm以下)このような場合は漆パテを1〜2回に分けて塗れば、埋め切ることができるでしょう。

難易度が高い大きな欠損を修復する方法

では、先程の①の「向こう側が見える大きな欠損」は、どのように修理すればよいのでしょうか?気合と根性で少しずつ何ヶ月もかけて埋めるしかないのでしょうか?ゆっくり楽しむのが醍醐味の金継ぎの精神からすると、それも良いかもしれませんが、実は近道があります!

それは、木材をカットして、欠損と同じ形のパーツをつくり、埋め込むことです!

しかし、誰にでもできる容易なことではありません。つぐつぐでは、木工を習得した金継ぎ師が、このような大きな欠損の修理を承ったときに活躍します。一つ一つ手作業で、同じ形を目指して、丁寧にカットしていきます。

がんばれ、木片女子!!

ちなみにつぐつぐでは、国産ヒバの木材を使用することが多いです。

つぐつぐの木片パーツ作成サービス料金とかかる時間

大きな欠損を埋める日数は格段に縮まるものの、それぞれ器の形にあった木片パーツを作成するのは簡単ではありません。

現在つぐつぐでは、木片作成は依頼を受けてから1ヶ月をいただいております。作成作業自体は1ヶ月もかからないのですが、ご依頼をまとめて、通常の金継ぎ修理の合間を塗って、一気に作成します。

料金は、2022年11月現在、大きさによらず1パーツ5,500円(税込)を頂いております。(今後、価格を改訂する可能性もあります)

(↑木片パーツを埋め込んで完成した金継ぎ)

この木片パーツ作成サービスは密かに人気がありまして、金継ぎ修理のご依頼のみならず、つぐつぐの金継ぎ教室に通ってくださっている生徒様からのご要望が増えてきています。そこで、つぐつぐの教室の生徒さんには3,300円と割引価格で提供しています。(ただし、木片を使って接着して埋め込むのは生徒様ご自身で行っていただきます)

こちらは先程の大きな欠損があった水差しです。木片パーツを作成後、そのまま埋め込むのではなく、漆を塗ってよく乾かしてから接着します。

この木片パーツの作成依頼は、破損した器を持ってつぐつぐのスタッフにお声がけいただくことで、簡単にご相談いただけます。

ということで、つぐつぐでは、みんながあきらめかけていたような破損の器も、がんばって修復しています!

木片パーツによる修理は昔からあったのか?

主に割れた磁器や陶器を修理する技法として伝わる金継ぎは、漆の特性を生かした修理方法です。昔は磁器・陶器は中国から輸入され、高い位の人だけが持っている高級品でした。磁器は庶民が使うことができず、その代わりに、木を削って器をつくり、そこに防水・防腐効果のある天然の塗料である漆を塗って、大切に使ってきたそうです。現在は安く大量生産できて壊れないプラスチックの台頭で、漆器は逆に高価で扱いにくいものとして日常生活の場から姿を消しつつありますが、木に漆を塗って器にすることは、磁器や陶器より昔から行われていました。

ですので、陶器の欠損に、木のパーツを入れて、漆でつなぐ修理は、あっても不思議ではないかもしれません。

このように、異なる素材の器をくっつけて一つのものにする技法を「呼び継ぎ(よびつぎ)」といいます。別の器の陶片同士を継ぐ時もありますし、陶器に木片を継ぐのも呼び継ぎの一つです。

(↑呼び継ぎの例。金を蒔いた後、黒漆で装飾してある)

大切な器をなんとか直したい!という要望に、自然の材料だけを使ってお直しする金継ぎ。大きな欠損があっても、そこに木のぬくもりもプラスして、「呼び継ぎ」なんて優美な技法を使って修復するのが、現代に身近になっていくのはうれしいことです。つぐつぐはこれからも、金継ぎ・漆・伝統の魅力を身近な形で広めて、みなさまの暮らしをちょっとでもよくできればと思っています!

↓つぐつぐへの金継ぎ修理依頼について、詳しい記事はこちらです。

↓自分の手で大切な器を蘇らせたい方へ、つぐつぐの金継ぎ教室の詳細は下記のページよりご覧ください。

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